長野県及び信州ITバレー推進協議会(NIT)では、県内IT企業のビジネス創出を促すため、令和3年度に「コンソーシアム活用型ITビジネス創出支援事業」により、地域課題解決等に繋がる新たなITシステム開発を支援する取り組みを行っております。
今回は、「VRun System」により「VR酔いしにくい」映像技術を世界に先駆けて開発した株式会社雪雲の丸山CEO/CTOのインタビューをお届けします。
【目次】
- 株式会社雪雲の起業のいきさつと事業内容について
- 世界初の「VR酔いしにくい」映像技術「VRun System」とは
- 実社会での活用法と引き合いについて
- 雪雲が目指す未来のメタバース
- まとめ
インタビューイ
株式会社雪雲:丸山健一郎CEO/CTO
近年、注目を集めるようになったインターネット上の仮想空間でアバターが活動する「メタバース」。言葉そのものは1990年代からありましたが、GAFAMの一角である企業の社名変更によって、2021年の後半に大きく注目を集めることとなりました。5Gの世の中になった今、ビジネスシーンやゲーム業界などで活用のメリットが見込まれ、市場規模拡大の可能性は高いとされています。
ところが、課題も幾つか残されており、そのひとつに「VR酔い」があります。VRゴーグルを装着してゲームを楽しんだ方は経験されていると思いますが、あの車酔いにも似た感じの症状です。30分以上の使用には注意喚起されているようですが、雪雲はその「VR酔い」を世界で初めて、大幅に軽減する技術「VRun System」を開発しました。
株式会社雪雲の起業のいきさつと事業内容について
ーーまずは、会社設立の経緯からお話いただけますか。
丸山さん:「VRun System」は、10年ほど前にはほぼ完成していました。作ったまま10年経っても解消する技術が出てこないので、ビジネスチャンスと捉え、会社を立ち上げようとなりました。
ーーなぜ10年も「VRun System」は眠っていたのでしょうか。メタバースの注目の度合いよりも、技術が先行し過ぎたということでしょうか。
丸山さん:前職で子どもの教育用途として、VRが使えないかと休日を利用して研究していました。私自身がVR酔いしやすい体質で、仕事が全く進まず、仕事に支障が出ないよう勤務時間外にVR酔いを解決する仕組みを作りたいと考えたからです。
やっと「VRun System」の基礎部分が完成した直後に、“13歳未満はVRデバイスを使ってはいけない”とのガイドラインができてしまい、お蔵入りとなってしまいました。
ーーでは、そんな世界初の技術力を持つ雪雲さんの現在の事業内容を教えて下さい。
丸山さん:toCのゲーム開発と、toBのVRの個別案件に対応しています。
ーー比率としてはどちらにウエートをおいていらっしゃるのでしょうか。
丸山さん:今は、海外から大きな案件が3、4件来ているので、toBに力を入れています。
しかし、人手が足りなくてどうしようかと(笑)。開発メンバーを募集しているところです。
ーー既に海外からの引き合いがきているとのことですが、どんな国のどんな業界でしょうか。
丸山さん:米国大手企業の新製品発表、ゲーミングPCメーカーのほか、有名美術館や博物館など多数のお問い合わせをいただいています。
世界初の「VR酔いしにくい」映像技術「VRun System」とは
ーーでは、海外からも注目されるVR酔いしにくい世界発の技術「VRun System」とはどうやって生まれたのでしょうか。
当時の私は、大手メーカーの予算管理や鉄道関連のシステムを開発するシステムエンジニア兼プログラマーでした。
その傍ら、趣味で3DCGデザインをやっていて、たまたま出品した作品に反響があり、それを機にゲーム開発やCGデザインの仕事を手掛けるようになりました。キャラクターや背景、あとはモーションを作ったり……。
MMORPGが流行っていたこともあり、サーバーを自作して、個人でゲーム開発したりもしていました。
そんな私自身がとても酔いやすい体質だったんです。VRを体験すると10秒で酔ってしまい、丸1日つぶれたこともありました(笑)。
それから、酔いの原因となっている現象を調べ、一つずつ解消していくことで、酔いにくい映像を作ることができました。
ーー技術的にはどういったシステムになっているのでしょうか。
丸山さん:VR酔いは、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)で見ているVR空間での自分の動きと、実際に体が感じている感覚のズレによっておこるベクション(現実世界では静止しているのに、視覚情報によって移動しているような感覚を起こしてしまう現象)などによって引き起こされる自律神経の乱れが原因だと考えています。
我々の技術は現在主流となっている制限だらけの不自由なVR酔い対策とは正反対で、一切の制限をかけることなく自由な移動や激しいアクションが可能なものとなっており、
〇 VR空間内をスティック操作で高速に移動しても酔いにくい
〇 ストレスのない長時間のVR体験ができる
〇 高フレームレートを維持する必要がなく、高画質なVR映像表現が可能
〇 同時多人数接続
を実現しています。
技術的な内容を詳しくお伝えすることは出来ませんが、VR空間内での移動やカメラ挙動の制御、無意識下で視点を誘導するような処理を行うなどして自律神経の乱れを抑え、酔いにくくしています。
また、通常のVRコンテンツが90fpsを超えるようなフレームレートを要求しているのに対して、30fps程度でも酔いづらい点は重要なポイントで、その分リッチな映像表現にマシンパワーを使え、よりリアルで没入感の高いVR空間を実現する事ができます。
ーー「VRun System」の強みはどんな点にありますか。
丸山さん:VR酔いするから使用していない。購入したVRヘッドセットも埃をかぶっているとか、そういった方は結構多いと思います。
酔いやすい方が酔いにくくなって、映像への没入感が増せば、VRヘッドセットの普及に大きく貢献できるのではと考えています。
コロナの影響もあってか、Metaquest2が去年1000万台出荷したようなので、もっと普及して、色んな方にVRの世界を楽しんでいただきたいですね。
VRun Systemは、どんなヘッドセットにも対応でき、既存のゲームエンジンと組み合わせることが可能です。
実社会での活用法と引き合いについて
ーーでは、実際にどう社会に活かせる技術となるのでしょうか。
丸山さん:ゲームとの相性は良いです。酔いにくいため、激しいアクションや演出が可能です。
他に、不動産物件の内覧ですね。これもVR酔いしにくい特性を活かして、リアルな室内の表現ができます。例えば、大規模な建築工事や都市開発をVRの中でシミュレーションすることも可能だと思います。何十億、何百億もかけて作ってから直すのは、大変ですから。
VR世界で建築してみることで、レイアウトや道路の引き方を変えるなど、実物大で確認することができます。
また、世界的名医の手術工程を同じ目線で体験する事ができ、手術の技術力向上や医学生の研修にも役立つと思います。
ーー今、実際に来ている引き合いについて教えてください。
丸山さん:医療系では、リハビリや問診ができないかと問い合わせを。行政からは、窓口業務のご相談をいただきました。他にも、動物園、水族館といった観光方面からも問い合わせをいただいています。あとは学校のオンライン授業で扱えないか……とかですね。
ーーリハビリと言いますと、どのような活用になるのでしょうか。
丸山さん:体を動かす前段階ですね。寝たきりの方とか、脳に歩いているような信号を与えることで、少しずつ筋肉をほぐしていくイメージでしょうか。
ーー業界や業種を選ばず活用できる素晴らしい技術ですね。ところで、信大との連携による開発にも取り組んでいらっしゃるようですが、どんな内容か教えていただけますか。
丸山さん:まだ始まったばかりですが、「VRun System」の効果を測定する研究自体は、1年ほど前から少しずつ進んでおり、ようやく検証の第一段階が始まったところです。新しい技術のため、やり方が確立されておらず、これで本当に検証できるのかどうかも含めて、施行錯誤の状況です。
ーー1年経過して、効果や感触はいかがですか。
丸山さん:特に酔いやすい人からは、「不快感の度合いが全然違う。」と、言われています。
検証は、学生や職員の方を対象に実施しています。3Dの映像に慣れていないこともあると思いますが、酔いやすいのは職員の方ですね(笑)。学生は、ゲームなどで慣れている印象です。
酔いやすさは年齢も多少の関係があるので、年配の方には、専用のチューニングが必要です。
雪雲が目指す未来のメタバース
ーー海外展開についてはいかがですか。また、今年の3月にはドバイに行かれるようですが。
丸山さん:ゲームのアルファテストを国内で行ってから、海外に広げていき、ユーザーを集めて展開していく予定でしたが、現在、海外の案件が多いので、いきなり海外展開の可能性もあります。
ドバイは、現地で行われる世界の投資ファンドが一堂に会するイベントがあり、そこでプレゼンをする機会をいただいたためです。
ーーこれからが楽しみな技術ですが、今後の展望についてもお願いします。
丸山さん:雪雲という社名は、長野県の会社ということもありますが、日本らしい社名にして、設立当初から世界を目指していました。
VRunSystemをはじめとするコア技術を基に開発した仮想空間を簡単に作成できる「メタバースエンジン」と、それを利用して作った複数の仮想世界を「The Connected World」の仕組みでつなぎ、それぞれの仮想世界を自由に行き来できるようにする事が最初の目標です。
そして、その仮想世界の中で経済活動が行えるように環境を整え、ゆくゆくはMR技術が発達したときに現実世界ともつなげて行きたいと思っています。
まとめ
現在、「VRun System」は特許を申請中で予備審査をクリアし、2023年6月ごろには受理される予定とのことです。特殊なハードウエアを使用することなく、新しい世界を雪雲の技術力でVR世界に作りだすことができる時代へ。
長野県発、世界が注目する技術の今後の展開が楽しみです。
株式会社雪雲
https://yukigumo.com/
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